薬秤が思い出させるもの
根岸計器製作所が作った薬秤です。
これだけ状態の良いものも珍しく、付属品も綺麗に揃っています。
ガラスに囲まれた天秤。下の引出しには分銅、ピンセット、スプーン。天秤を囲むカバーを取り外して使用します。…と言っても何を計るでもなく、もちろん薬局経営をしている訳でもなく。観賞用として購入したものです。
ボーッと眺めているだけで、いつの間にか時間が過ぎてしまいます。それでも、この薬秤が生きてきた時間からすれば短い短いひとときです。
僕は町内に病院すらない田舎に生まれました。いやいやそれどころか、道路にセンターラインも無かったですし、信号機も見たことはありません。ポツンと一軒家だらけです。週に何回か隣町からお医者様が来てくれて、診療所なるところで診察が可能でしたが、あまり良い思い出はありません。当たり前ですが。
しかし今思えば、ありがたかったなぁ…と。子供に対してもぶっきらぼうな先生でした。フルネームを記憶していますし、何故か顔もしっかり覚えています。雪も積もる地域で、あの時代の悪路を年中通ってくれたおかげでどれだけ助かったか。
大人になり都会に出ました。とあるお医者様と話す機会があり、そんな昔話をしていたところ…なんとその先生をご存知とのこと。数百キロ離れた都会での偶然です。驚きました。
当時の年齢を考えると、ちょっとご存命は難しいかもしれません。お礼を言いたいなぁ。お会いしたいなぁ。お尻にでっかい注射はもうごめんですが。